東京地方裁判所 昭和35年(ワ)4152号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告等の三男茂は被告等の三男俊夫(当時一七年七月)に喧嘩をしかけられ、飛出しナイフで左胸部をつき刺され死亡した。原告等は右不法行為による物質上の損害の賠償ならびに精神上の苦痛にたいする慰藉料の請求をするものであるが、被告三郎夫妻は親権者として適切な監護教育を尽し、未成年の子である俊夫を健全な社会人に育成すべき義務あるにかかわらず、これを怠つたため、俊夫は完全に不良化し、本件事故の発生の原因となつたものである。民法第七一四条は責任無能力者の不法行為につき法定の監督義務者が監督義務を怠つたことによりその賠償義務を負うべきことを定めているが、責任無能力者といえない俊夫の前記行為について被告ら夫婦に同条を適用することはできないけれども、監督義務者に監督上どのような過失があつても未成年者が責任能力を有する以上、監督義務者自身において同法第七〇九条の要件を充足しないかぎり責任を負わないとすれば、未成年者は通例無資力であるため不都合な結果を生ずることが多い。したがつて責任能力者たる未成年者が不法行為をなした場合にも、条理上同条を類推適用し監督義務者は損害賠償責任を負うと解釈するのが相当である。と主張した。
判決は原告のみぎ主張を排斥し、つぎのように説明している。曰く。
「つぎに、原告両名は、被告夫婦の監督義務の懈怠と損害の発生との間に相当因果関係の存在を立証できないときは、民法第七一四条を類推適用して、被告夫婦に損害賠償の責を問う趣旨の主張をするところ、未成年者が無資産であるために被害者側の保護に欠けるところのあることは否定できないけれども、一般的規定による帰責事由の外に特別に責任を認める規定は原則として制限的に解すべきところ不法行為法上の一般原則の特別ないし例外規定と考えられる同法七一四条を責任能力者の場合にもこれを拡張的に解釈することは許されないと解するのが相当である。してみればこの点についての原告両名の主張もまた理由がないので被告夫婦に対する原告両名の請求は、失当であつて、いずれも棄却を免れない。